インボイス導入で考える① 免税事業者は消費税を請求できるのか #223

税金や会計のヒント

現行

国税庁のパンフレット「消費税の軽減税率制度に対応した経理・申告ガイド(令和元年6月)」には、次のとおり記されています。

免税事業者は、課税資産の譲渡等に課される消費税がないことから、請求書等に「消費税額」等を表示して別途消費税相当額等を受け取るといったことは、消費税の仕組み上、予定されていません。

「予定されていません」とは、如何にもお役所っぽい表現ですが、これを翻訳しますと、「免税事業者は消費税を納税しないのだから、消費税を請求したらいけないのは当然でしょ? でも、消費税法には禁止規定がないので禁止できず、苦々しく思っております。」でしょうか(笑)。

「じゃあ、請求してもいいんですね?」と聞いても、「いいです。」とは言えず、「予定されていません。」としか答えられないでしょう。

これらのこともあり、現状では、免税事業者が消費税を請求しても問題(罰則無し考えられています

私の考え

消費税法第9条では、小規模事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下の者)に係る納税義務の免除が規定されています。

納税義務が免除されているということは、免税事業者にも「免税する前の消費税」の存在を認めていることになります。免税事業者が消費税相当額を請求できないのであれば、免除する必要もありません。

この件も含めて、私は、免税事業者であっても消費税を請求してよいと考えています。

インボイス導入後

インボイス制度は、令和5年10月から導入されます。なお、インボイスの正式名称は、「適格請求書等」と言います。

インボイスが規定された新消費税法でも、免税事業者が消費税相当額を請求することは禁止されていません。

国税庁のパンフレット「適格請求書等保存方式の概要~インボイス制度の理解のために~」(令和3年7月)の5ページには、次の2点(緑太字)が記されています。

※1 適格請求書発行事業者の登録を受けていない事業者であっても、適格請求書に該当しない請求書等は発行することができます。

「適格請求書に該当する請求書等」とは、次の必要な事項がすべて記載されたものをいいます。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

逆に言えば、これらの事項の1つでも欠けていたら、適格な請求書とは言えません。免税事業者は1.の登録番号がありませんので、これを記載せずに他のすべての事項を記載しても、「適格請求書に該当しない請求書等」ですので、発行可能となります。

※2 登録を受けていない事業者が、適格請求書と誤認されるおそれのある書類を交付することは、法律によって禁止されており、違反した場合の罰則も設けられています。

この登録番号以外の事項が記載された請求書等は、※2に記されている「誤認されるおそれのある書類」に該当するのではないかという心配が生じます。違反した場合の罰則という「注意喚起」がありますので、気になるところです。

税務大学校論叢

国税庁ホームページに掲載されている、税務大学校論叢第103号(令和3年6月)の中に、「インボイス制度導入後の是正に関する一考察 -適格請求書類似書類等の交付禁止・罰則規定を踏まえて-」という研究論文があります。全文100ページ近い内容ですが、興味がある方はご覧ください。

ここには、「誤認されるおそれのある書類の例示」と「偽りの記載をした適格請求書の例示」があり、前者の例示は次の5つです。

  1. 取引事実を仮装した書類
  2. 取引排除の回避を目的に他人の登録番号を記載した書類
  3. 取引排除の回避を目的に架空の登録番号を記載した書類
  4. 消費税相当額の詐取を目的に他人の登録番号を記載した書類
  5. 消費税相当額の詐取を目的に架空の登録番号を記載した書類

これらは、私からすれば、「誤認されるおそれのある書類の例示」ではなく、悪質な「偽りの記載をした適格請求書の例示」と思うのですが、皆さまはいかがでしょうか?

でも、この考えが国税庁の考えと同じだとすれば、「登録番号がないだけの請求書等」は、「誤認されるおそれのある書類」とは言えない、とも解釈できます。

インボイス制度導入後も免税事業者は消費税を請求できるのか

では、インボイス制度導入後も、現行どおり引き続き、免税事業者は消費税相当額を請求できるのか。

私は、否定的です。

Aという会社がBという取引先からモノを購入した際、今までは、Bが課税事業者なのか免税事業者なのかが分かりませんでした。また、どちらであろうとも、A社は、自身の消費税申告において仕入税額を控除することが可能でした。そのため、Aは、Bが課税事業者なのか免税事業者なのかには、それほど関心が無かったかもしれません。

しかし、インボイス導入後は、違います。

まず、課税事業者(本則課税)は、受け取った請求書等がインボイスであるかどうか、真剣に確認することでしょう。また、請求書に消費税額の記載があり、かつ、登録番号が無い場合は、免税事業者なのか、課税事業者で登録番号が漏れているのか分かりません。経理担当者は、Bに確認することでしょう。

そして、免税事業者が消費税相当額を請求していたら、「登録番号が無いのに、なぜ消費税を請求するのか。」と指摘されるかもしれません。「自分の店は一般消費者を相手にしているからインボイスは関係ない。」と思っていても、客の中には、課税事業者が交ざっている可能性があります。

したがって、Bが消費税10%を丸々上乗せしていたら、Aから値引きを求められるおそれがあります。このため、免税事業者が消費税(10%、8%)を請求することは実質的に困難になるのではないかと考えています。最悪、信頼を無くし、取引から排除されるおそれも生じます。

さいごに

免税事業者が消費税を請求した請求書(登録番号だけ無い請求書)が「誤認されるおそれのある書類」にするかどうかは、国税庁は明らかにしていません(本日現在確認できませんでした。)。

私は、今後も明らかにしないのではないかと思っています。

さて、ある団体から依頼された、委託販売と買取仕入が混在する農産物直売所のインボイス対応策について、資料をまとめて納品しました。また、別の団体からは、インボイス対応セミナーの依頼がありました。さらに、私が所属するよろず支援拠点福岡でも、インボイスセミナーを準備しており、私も講師をすることになるでしょう。

世の中がインボイス制度に目を向け始めています。

インボイス制度は、早めに勉強してきましたが、その分忘れていることも多いと思いますので、また復習したいと思います。

【編集後記】

大スクリーンで観る映画が大好きです。現職のころはよく休日に鑑賞に行きましたが、退職してからはたまにしか行っておりません。

今年、地元の映画好きが「八女で映画をみる会」を発足させたそうです。パンフレットをいただき、7/1(金)の「お終活」を女房と観に行くことにしました。(お金にならない時間がかかる)仕事ばかりしているので、息抜きしたいと思います。

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