親和性
当たり前ですが、理想は、両方の資格を有することです。
税理士と中小企業診断士は、その業務の内容や目指すべき方向性から、とても親和性が良い資格です。「取るならどっち?」と言いながら申し訳ありませんが、両方取得されることをまずは第一におススメします。
開業後、ある方から、「田中さんは、税理士(税法、会計)であり中小企業診断士(経営)である上に税務署OB(税務調査)なので、『最強』ですね。」と言われたことがあります。「(世間から見たらそうなんだぁ。)」と思った次第です。
難易度
資格の学校TACによると、税理士の難易度は★5つ、中小企業診断士の難易度は★4つです。
ネットで検索したら、合格までの勉強時間は、税理士3,000時間、中小企業診断士1,500時間とも言われているようです。
ちなみに、令和2年度の最終(全科目)合格率は、税理士2.4%、中小企業診断士5.8%でした。なお、過去の中小企業診断士の合格率は、4%前後です。ちまたの噂によると、コロナウイルスの影響で、合格に自信がない方が受験しなかったから合格率が上がったのではないかと言われていました。
データから見たら、税理士合格の方が難しそうです。私もそう思います。ただ、科目が違うので、個々人から見る難易度は違うかもしれません。
税理士は5科目の合格が必要ですが、最低2科目取れば、(数年かかりますが)大学院で勉強して残りの科目を免除してもらうという道があります。中小企業診断士も2次試験は、(半年から1年の)登録養成研修を受講して合格すれば免除されるという道があります。共に、お金と時間がかかりますが。
税理士の科目はいずれも難易度が高いのですが、科目合格すればその科目は永久に取得状態が続きます。一方、中小企業診断士の科目合格は2年後までしか効力がありません。その間に1次試験を合格しないとまたその科目を受け直さないといけません。さらに、1次試験を合格しても、2次試験を2年連続落ちれば最初からやり直しです。辛い…。
税理士試験に合格できる頭脳がある方でしたら、ちょっと頑張れば中小企業診断士に合格する可能性は、とても高いでしょう。ただし、中小企業診断士の2次試験は、対策が取りにくい(閃きが重要です)ので、ご注意ください。1次試験に毎年のように合格する方なのに2次試験が何度も不合格、という話はよく聞くところです。
ちなみに経済産業省が、中小企業診断士の科目合格に資格を与えよう(名乗ることができる)制度を設けようとしていますが、愚の骨頂だと思っています。おエライさんの思い付きでしょう(私も行政マンのころは苦労しました。)。
独占業務の有無
税理士と中小企業診断士の大きな違いの一つが、独占業務の有無です。
税理士は、無償独占と言いまして、税務代理、税務書類の作成及び税務相談の3つの業務につきましては、資格がないとできません。これらの業務は、無資格者は、無償(タダ)で行うこともできないことから、無償独占と呼ばれています。なお、記帳代行(会計業務)については、一般の方は税理士でないとできないと勘違いされていますが、資格は不要です。
一方、中小企業診断士にはそのような独占業務はありません。資格を作る際のミスかもと思いましたが、既にちまたに経営コンサルタントを名乗る個人法人がたくさんいらっしゃったでしょうから、独占したら混乱したことでしょう。経営コンサルタントの業務を線引きするのも困難です。また、他の士業は委任を受けて行う業であることも理由の一つだと思います。経営のアドバイスや資料作成をしたとしても、中小企業診断士が代理で経営を行うことは通常ありません。
したがって中小企業診断士は、何かを行うための資格というよりも、一定の知識を有する者としての士業という珍しい立場です。
収入と安定性
最近話題の事業再構築補助金の公募要領の中に、「専門家経費」という項目があります。そこでは、「補助対象の専門家の謝金単価」として、公認会計士等(税理士を含むと思われる)は1日5万円以下、中小企業診断士は4万円以下とされています。これが世間の相場なのでしょう。
私の感覚では、税理士は、仕事の単価は低いけど安定しています(単発の相続税などの申告を除く)。中小企業診断士は、単価は高いけど不安定です。
所属する団体からの仕事の斡旋は、税理士会からの頻度はそれほど多くはありません。
一方、中小企業診断士協会からは結構多いです。私が今行っている、ある補助金関係の仕事も中小企業診断士協会からの紹介ですし、来月も別の仕事をいただいています。他にも、仕事の斡旋がちょくちょく参りますが、自分に合わない、距離が遠いなどの理由で応募していません。ただし、いずれも単発、または、1年限りの仕事です。
ちなみに、私の今年度の収入は、2対8で中小企業診断士としての方が多いです。最終的には3対7程度になると見込んでいますが、前述のとおり、税理士の収入は安定していますので、来年度は、中小企業診断士としての新規契約がなければ、この比率が逆転することでしょう。
ディフェンスとオフェンス
税理士は、会計を通じて資金繰りを見たり、節税のためのアドバイスをしたりします。一方、中小企業診断士は経営に携わりますので、経営(成長)のための投資、採用、資金調達などのコンサルタントをします。
大雑把ですが、私のイメージは、税理士はディフェンス(守備)、中小企業診断士はオフェンス(攻撃)です。また、税理士は過去を、中小企業診断士は未来を見つめる仕事とも言えます。
IT時代に求められる仕事
「経営参謀としての士業戦略」藤田耕司(公認会計士・税理士)著には、いくつかの士業の将来性が語られています。その中では、ITの進化とAIの驚異的なスピードでの台頭により単純作業は取って代わられるという風に書かれていますが、これを否定される方は少ないと思います。一方で、人間でなければできない業務は、当然残ります。この本で「自動化される業務」には、次のようなことが書かれています。
- 弁護士 定型的な契約書の作成、単純な法律相談
- 公認会計士 監査の過程で作成される多くの資料作成
- 税理士 記帳代行業務、決算書や申告書の作成
- 司法書士 商業登記、法人登記
- 行政書士 書類作成業務
- 社会保険労務士 給与計算、単純な就労規則の作成
- 弁理士 出願に関する書類作成、先行出願の調査
- 中小企業診断士 (自動化できる業務が少なく、他の士業に比べてAIによって代替される仕事の割合は少ない。)
なお、それぞれの士業において、その士業でなければならない(残される)仕事も掲載されていますので、興味がある方は、本をご購入ください。
ところで、それぞれの士業のうち一部の方々は、生き残りをかけて経営コンサルタントの業務に力を入れ始められています。経営コンサルタントに最も近い士業は中小企業診断士ですが、この業務は誰でも行うことができます(資格は不要)。既に、「士業+経営コンサルタント」というビジネスモデルが多く出現しています。避けて通れない道なら、早めに着手されるのも良いかもしれません。
いずれにしても、IT化・AI化を含めて、どちらの資格に挑戦するかもご検討ください。
まとめ
以上が私の考え(イメージ)です。
良かったら参考にしていただき、ご自身の性格に合わせて、税理士を選ぶのか中小企業診断士を選ぶのかお決めください。また、しつこいですが、できれば両資格の保有も目指してください。
【編集後記】
依頼された補助金の仕事を、本日午前中に納品しました。12日も投下し、結構疲れました。
税理士(顧問契約)の普段の仕事は、定期的かつ定量的なので計画が立てやすいのですが、中小企業診断士の仕事はスポットでの短期作業が多く、ソロ税理士として活動する私にとっては、並行して行わなければなりません。でも、とても勉強になるし、やりがいがある仕事でもあります。
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