従業員のために掛けた生命保険の税務上の取扱い #187

税金や会計のヒント

ある日の質問

先日、講師として出席した講習会で、「従業員のために掛けた生命保険の税務上の取扱い」について質問を受けました。時間がなかったので、「後ほど、このブログで回答します。」と返事して別れました。

※ 先輩から、「従業員のために掛けたのであれば、必要経費にならないのではないか。」とのアドバイスをいただきました。確かに誤解を生じたかもしれません。「この保険は、事業目的で掛けるものです。事業主がボランティア精神で掛けてあげるのとは、意を事にしているます。例えば、給料が高い、福利厚生が整っているなど、雇用条件が良ければ、優秀な人材確保という目的を果たせます。また、生命保険は長くかけますので、退職を考え直す一つの材料にもなるでしょう。その上で、従業員の為にもなるでしょう。」そういった意味での言葉です。言葉足らずでした。[2021/08/25 9:43 追加]

質問者(個人事業主 [2021/08/26 13:43 追加]は、「従業員に生命保険を掛ける。その従業員に万が一のことがあれば、遺族に保険金が行くようにする。満期返戻金は退職金の原資としたい。」と言われていると解釈しました(短い会話でしたので、違っていましたら改めてご連絡ください。)。

そして、①契約者は事業主である、②被保険者は特定の従業員のみではない、③従業員は事業専従者ではない、ことを前提に回答いたします。

なお、生命保険は、様々な種類があること、法令やその解釈が変更されるおそれがあることから、実際に契約される際には、専門家や保険会社に確認をお願いします。

死亡保険金の考え方

死亡保険に係る保険料は、いわゆる掛け捨てで、一般的には定期保険と呼ばれています。

そして、従業員のために福利厚生目的で事業主が保険料を負担しているのであれば、福利厚生費としてその年に対応した分を必要経費に算入いたします(翌年以降の部分は前払費用(資産勘定)として貸借対照表に計上します。)。なお、従業員については、何も影響はありません。

満期保険金の考え方

生命保険の中には、死亡時には保険金が支払われるけど、死亡せずに満期になったら保険金が支払われるものがあり、一般的には養老保険と呼ばれています。

満期になれば保険金が支払われるので、満期保険金に相当する部分の保険料の性格は、貯蓄のようなものです。事業主が金融機関に定期積金をしたとしても、経費ではなく資産に計上されます。これと同様に、生命保険料の中で満期保険金相当部分は必要経費になりません。こちらは、保険積立金(資産勘定)として貸借対照表に計上します。

あてはめ

これらの考えを基に質問者の事例に当てはめてみると、次のとおりです。

保険料支払時

従業員には、何も影響はありません。そして、事業主は、保険料の1/2を福利厚生費としてその年に対応した分を必要経費(福利厚生費)に算入し、1/2を資産(保険積立金)に計上します。

借方貸方
福利厚生費  10,000
保険積立金  10,000
普通預金  20,000

死亡保険金受取時

積み立てていたお金は事業主には戻ってきませんので、その年の必要経費に振り替えます。

なお、遺族が受け取った死亡保険金は、遺族の相続税の課税対象になります。

借方貸方
雑損失  1,000,000保険積立金 1,0000,000

※ 借方は当初「給料賃金」としておりましたが、「雑損失」ではないかとの指摘があり、訂正いたしました。 [2021/08/26 13:43 追加]

満期保険金受取時

受け取った金額のうち、保険積立金を上回る部分は雑収入として計上します。

後日、従業員に支払った退職金は、事業主の必要経費になり、従業員の退職所得となります。

借方貸方
普通預金      2,200000
保険積立金  1,700,000
雑収入     500,000
給料賃金(退職金) 2,200000普通預金   2,200,000

まとめ

質問者が考えられている保険契約の場合、最終的には支払った保険料はすべて経費になります。

従業員本人や家族のために保険契約をしてあげるというのは、「コスト」ではなく、とても良い「投資」だと考えます。

【編集後記】

今回講師を務めた新規就農者向けの講習会の原稿作りに、かなりの時間を投入したため(PowerPointで38スライド×3版)、最近はブログの更新ができませんでした。今日からやっと、再開する余裕ができました。

行政機関からの依頼でしたので、報酬は少ないです(私も行政機関に居た人間なので、十分理解できます。)。投下した時間を集計して計算してみたら、最低賃金を下回る時給600円程度の仕事になっていました(笑)。

でも、農業や税法について改めて勉強することで、自分の成長につながったと考えておりますので、これも「投資」です。

ただ、時間が短かったので、今回は会計や税法中心の説明にならざるを得ず、もっと「経営」について伝えたい基本的なことがいくつもありました。可能ならばまたいつか、彼らと共に「経営」について語り合いたいと願っています。。

コメント

  1. 徳永修 より:

    こんばんは。
    養老保険の二分の一損金パターンは従業員の福利厚生目的で行われることが前提です。かける対象者などの要件があります。
    そこを書くことが必要かと思います。
    また、保険事故が発生し、保険金が払われた際の経理は給与ではなく、雑損失だと思います。給与だとその支払先は?
    保険の通達がありますので参考にされたらいかがでしょうか。
    なお、保険は節税商品ではありません。また、人の死亡に期待するような保険はモラルリスクから組成すべきではありません。

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