農業所得
個人の事業所得は、申告書の様式を見ると、その業態を大きく分けて「営業等」と「農業」に区分されています。実は、所得税法では、このような区分はされておりません。しかし、この2つを分けておいた方がいろいろと便利なので、このように区分しています。
営業等 所得 | ●卸売業、小売業、飲食店業、製造業、建設業、金融業、運輸業、修理業、サービス業などのいわゆる営業 ●医師、弁護士、作家、俳優、職業野球選手、外交員、大工などの自由職業 ●漁業などの事業 など |
農業 所得 | ●農産物の生産、果樹などの栽培 ●養蚕、農家が兼営する家畜・家きんの飼育 ●酪農品の生産 など |
[資料出典:国税庁ホームページ]
収穫基準
農業所得は、同じ事業所得なのに青色申告決算書や収支内訳書の様式や勘定科目が違うのは、会計上、少し特殊な事業だからです。
その理由の一つが、農産物によっては、総収入金額(売上)を、販売したときではなく収穫した時の価格(時価)を計上しなければならないことです。これを「収穫基準」と呼んでいます。
所得税法第41条(農産物の収穫の場合の総収入金額算入)は、次のとおりです。
- 農業を営む居住者が農産物(米、麦その他政令で定めるものに限る。)を収穫した場合には、その収穫した時における当該農産物の価額(以下この条において「収穫価額」という。)に相当する金額は、その者のその収穫の日の属する年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。
- 前項の農産物は、同項に規定する時にその収穫価額をもつて取得したものとみなす。
この他にも、生き物を扱うため、工業製品のようにきちんとした製造原価を計算しにくい部分があります。
課税方法の変遷
米作の例
昔の農業従事者は、帳簿を付ける習慣がない方がたくさんいらっしゃいました。そこで、税務署では、毎年「農業所得標準」を作成し、規模が小さい農家には、収支計算ではなくこれを使って申告することを容認しておりました(強制ではなく任意です。)。
各人の米作に係る農業所得は、米を作付けしている田んぼの「面積」に一定の倍率を乗じて算出するのです。例えば、「1a当たり10万円が所得」などです。この倍率を、「農業所得標準」と呼んでいました。
私たち農業所得担当者は、サンプルを取って、収入と経費を見積もります。収入は、坪刈りによって計算します。米が実った田んぼのうち、1坪を刈り取って脱穀し、どれだけの米が取れるのかを調べ、それに時価を乗じます。
経費は、さまざまなデータを集めて、単位当たりの種籾、肥料、農薬、農機具などを見積もります。後は、収入から経費を引いて「農業所得標準」を完成させます。
果物の例
例えば、柿の収入については、標準となる木を決めて1本当たり何個実っているかを数えて時価を乗じます。
恣意的な数字にならないよう、税務署、役場、農協の各職員が一人ずつ数取器を持って、柿の数を数えます。
私の記憶では、数えた数が毎回、税務署>役場>農協になっていました…。
経費は、米と同じように計算します。
収入金課税を経て収支計算へ
時代が変わり、前近代的な計算では、公平性が損なわれるという議論が出てきました。
そこで、いずれは収支計算に移行することを睨んで、その経過措置として収入金課税が導入されました。
経費を付けるのはたいへんだけど、収入は割と簡単に管理できるだろうということで、収入は実額とし、経費は一定割合を認めるという施策が導入されました。今で言えば、医師に認められている租税特別措置法第26条のように、概算で経費を計算できる制度です。
この後しばらくして、収入金課税も廃止され、現在のように収支計算一本となっています。
【編集後記】
私が経験したような農業専門担当は、今の税務署にはいません。今日の記事は、当時の記憶を辿りながら書きましたので、勘違いがあるかもしれませんので、ご承知おきください。
私が保有する「農業経営アドバイザー」の資格取得は、この農業所得担当の経験から農業の経営に興味を持ち挑戦した次第です。
ところで、私の名前は、農家の長男みたいですが、実家は農家ではありません。
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