税理士業界においてイノベーションのジレンマやパラダイムシフトは起きるのか #133

税金や会計のヒント

イノベーションのジレンマとは(ウイキペディアより引用)

イノベーションのジレンマとは、巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論。クレイトン・クリステンセンが、1997年に初めて提唱した。

大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、カニバリズムによって既存の事業を破壊する可能性がある。また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまうのである。

パラダイムシフトとは(ウイキペディアより引用)

パラダイムシフトとは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう。

税理士業界のビジネスモデル

税理士業界のビジネスモデルの一つが、記帳代行というものです。顧客の領収書・レシートなどを預かり、帳簿を納品するというものです。顧客側にとってはアウトソーシングとして重宝されます。面倒くさい作業や難しい計算から開放されます。

最近の格安税理士は、これに特化して、数をこなすことで利益を出そうとしています。また、記帳代行は、税理士以外でもできることから、記帳代行専門業者も存在します。

税理士側から見れた、毎月これを繰り返すことで、安定した収入を得ることができます。また、記帳の先には決算があり、確定申告があります。記帳と別に契約する顧客はほぼいないでしょうから、こちらの仕事でも収入を得ることができます。

お互いウインウインの、よくできたビジネスモデルです。

未来の税務専門家

税務業界紙に「税のしるべ」というものがあります。ここが3月8日号に、「AI化の展望や未来の税理士を考察」という記事を書きました。日本税理士会連合会が研究会に諮問していたものの答申です。

この答申の正式名称は、「主要国の税務行政のICT/AI化の展望と未来の税務専門家制度についての考察」です。55ページと長いですが、興味がある方はご一読ください。

ここには、税理士の類型化モデルが示されています。

税理士1.0 記帳代行タイプ

事務所内において税務会計ソフトの入力業務(一部手書きを含む)から税務書類作成業務まで行うフルラインサービスタイプ

税理士2.0 自計化支援タイプ

企業の自計化支援業務+事務所内における税務ソフトを利用した税務書類の作成業務をメインとするタイプ

税理士3.0 顧問タイプ

特定の業務(法人税務顧問・法人税務調査の立会)をメインとするタイプ

税理士4.0 特定分野ネットワークタイプ

特定の分野(組織再編・国際税務・相続対策・事業承継・スタートアップ等)の相談・プランニングに特化するタイプ(人的ネットワークを活用するクリエイティブな業務を中心とするタイプ)

税理士5.0 特定分野AI等活用タイプ

税理士4.0の特定分野についてICT/AI・5Gを活用し、地域差を越えて業務を行うタイプ

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freeeやマネーフォワードに代表されるクラウド会計は、AIの進歩やデータ連携により、驚くほど経理が効率化されます。私が一般の方にこれらを紹介すると、現在のところ全員がこのクラウド会計に乗り換えられました(数は少ないですが)。そして、全員が自計化されています。

現在、税理士に記帳代行を依頼されている法人や事業者がこのソフトの存在を知った場合、どのくらいの方が乗り換えられるかは不明ですが、一定の数があると想定されます。また、新規に会計ソフトを使う方のうちICTリテラシーが高い方は、クラウド会計ソフトを選択されることでしょう。つまり、答申が言う記帳代行タイプの職域は、クラウド会計ソフトにシェアを徐々に侵されていくことになります。

答申中のイメージ図においては、1980年代の税理士の大半を占めていた記帳代行タイプのシェアは徐々に、かつ、大幅に減少し、2030年には、前述の5つのタイプの1つになるだろうというイメージです。

私の予想

税理士業界において、インストール型からクラウド型へというイノベーションのジレンマは既に起き始めており、パラダイムシフトは起きると予想しています。ただし、このシフトは、今直ぐではなく、今後10年~20年くらいのスパンで徐々に進行していくと考えています。

したがって、今後開業される若い税理士の方々は、従来の記帳代行タイプではなく、戦略的にその他のタイプを選ぶ方が増えてくることでしょう。

一方、既存の税理士事務所は、事務所全体をインストール型からクラウド型へ転換するには、高い障壁があります。その作業には、事務所の大きさに比例して膨大なエネルギーが必要なのです。そもそもこの業界は、同じインストール型の他のベンダーに転換することさえ困難になるよう囲い込みがなされています。スマホの乗り換えとは、桁が数桁違います。

したがいまして、税理士業をこの先20年以上続ける予定がない税理士の方には、そのままインストール型で事業を続けられる方が良いでしょう。

補足

ちなみに私は、「税理士2.0自計化支援タイプ」と「税理士3.0顧問タイプ」を合わせたようなタイプです。記帳代行はやりませんので、「税理士1.0記帳代行タイプ」ではありません。記帳代行を求められた場合は、他の税理士をご紹介します。

その理由は、

  • そもそも、クラウド会計ソフトを使えば、自分で記帳できる。
  • 自分で記帳することにより経営者としての意識と能力が向上する。
  • リアルタイムの数字を見ることにより、スピードある決断を下すことができる。

などと考えているからです。

【編集後記】

昨年私は、九州北部税理士会に入会しました。その際の会長のあいさつの中で印象に残っているのが、次の言葉です。

「私たち税理士は、計算屋ではなく、法律家である。」

会長の言葉の真意には、専門家としてのプライドと将来の税理士界を見据えてのものがあったと、私は解釈しています。

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