自分で働いた分を賃金としていただく「自家労賃」は経費にできるか #132

自分語り

自家労賃とは

自家労賃とは、個人事業において、事業主自身が働いた分の給料のことです。

例えば、毎月25日に自身の給料20万円を現金で支払いました。これは経費になるのでしょうか。

なるとした場合の仕訳は、次のとおりです。

 給料賃金 200,000 / 現金 200,000

しかし、現実には、次のとおり仕訳をして、必要経費には入れられません。

 事業主貸 200,000 / 現金 200,000

プラスマイナスゼロ

以前、税務署で農業担当をしていた際に、農家の方から「他人が働いたら給料となって経費になるのに、自分が働いた分がなぜ経費にならないのだ。」「自分が働かないと誰かにお金を払って働いてもらわないといけないではないか。それは、経費になるんだろう?」と詰め寄られたことがあります。

でも、仮に経費となるとした場合、その事業主は同額の収入を得たことになり、結局プラスマイナス0です。そのように説明して、納得してもらっていました。

みなし法人制度

「法人は、役員報酬を支払った場合、給与所得控除の分だけ得になる。不公平ではないか。」と言われる方がいらっしゃいます。これは、法人は、個人とは別人格として存在しているからで、個人=事業主である個人事業主とは形態が違います。

ところが、実は日本には過去、この主張を取り入れた制度が存在していました。みなし法人制度です。その名のとおり、個人事業なのではあるけど、それを法人が事業所得及び不動産所得を生み出したとみなして課税するものです。

みなし法人制度は、昭和48年に創設され、事前に届け出た事業主報酬(給与所得として課税)を必要経費とし、残った所得に法人税率を適用します。

なお、みなし法人制度は、平成4年分の確定申告まで適用されていましたが、様々な問題があり廃止されました。一つの考え方としては面白いですね。

みなし法人については、税務大学校論叢(「ろんそう」と読みます。)に論文が掲載されていますので、興味がある方はご覧ください。

青色事業主勤労所得控除

一般社団法人全国青色申告総連合は、令和3年度税制改正要望意見の中で、みなし法人と似た制度として、以下のとおり青色事業主勤労所得控除の創設を求めています。参考として引用します。

わが国には、個人事業主の勤労性所得を認める税制上のしくみはない。一方、個人企業と経営実態が類似する同族法人企業の社長には、役員報酬が支払われ、給与所得控除が認められている。両者に共通する勤労性所得に対する課税のあり方に不公平が生じている。このため個人事業主と社長とでは、所得税・住民税での税負担に大きな格差がある。

また伝統的な自営業者が減る一方、働き方の多様化により給与所得者に類似した雇用的自営業者やフリーランスが増えている。働き方の違いによって不利益が生じない公平な税制を構築すべきである。

正しく帳簿を作成し、適正な青色申告をおこなう個人事業主に、勤労所得控除の適用を所得税法上に認めることは、課税のあり方を公平にすることができる。青色事業主勤労所得控除の早期実現を要望する。

法人成り

現状では、自家労賃を経費にするには法人成りしかありません。

なお、法人成りにはメリットとデメリットがありますので、ご検討の際には顧問税理士にご相談ください。

【編集後記】

毎日、1日中何かをしています。土日も事務所にいることが多いです。とても忙しいという訳ではありませんが、何らかやることがあります。要領が悪いのでしょう。

そのためか、1日1週間1か月が直ぐに過ぎ去っていく感覚です。年齢を重ねると1年が短く感じるというので、もしかしたら原因はそちらかもしれません。

ただ、「何もすることがない」よりは恵まれています。

そのことに感謝しながら、今日も1日過ごします。

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