確定申告会場で受けた気の毒な医療費控除の相談

税金や会計のヒント

煽る人々

医療費控除の創設は古く、たしか、昭和24年のシャウプ勧告(戦後日本の税制に強い影響を受けた勧告)にも入っていたと記憶しています。

「サラリーマンでも節税できる」と、テレビなど物知り顔でおっしゃる方が多い医療費控除ですが、かけた労力と比べた還付税額の少なさにがっかりされる方もたくさんいらっしゃいます。

また、勘違いされている方もいらっしゃいます。以下、確定申告相談会場での会話です。

  • 相談者)去年20万円医療費がかかりました。
  • 私)そうですか。では、源泉徴収票(サラリーマンの年収と所得税額が記載されているもの)を見せてください。
  • 私)あなたの去年の年収は90万円でしたので、税金が引かれていませんね。
  • 相談者)はい、そうです。
  • 私)では、医療費控除を入れて申告されても、戻す税金はありません。
  • 相談者)分かりました。では、医療費はいくら戻ってくるのですか?
  • 私)医療費控除は医療費を返す制度ではありません。医療費の負担が大きい分、一定の割合で税金を少なくする制度です。
  • 納税者)そんなはずはありません! テレビで〇〇さんが、「医療費が戻ってくる」って言っていましたよ!
  • 私)…。

私の説明が下手だったのでしょう。なかなかご理解いただけず、苦労しました。

医療費控除の計算式

医療費控除の金額は、次の式で計算した金額(最高で200万円)です。

実際に支払った医療費の合計額 – 保険金などで補填される金額 – 10万円(※)

(※)その年の総所得金額等が200万円未満の方は、そう所得金額等の5%の金額

※印は、俗に「足切り」とも呼ばれています。所得金額等が200万円以上の方は、保険金がなければ10万円を超える部分が控除対象となります。ざっと計算する場合は、10万円を超えた額に10%(%は人それぞれです)を乗じた金額が減る税金の額です。

  • 相談者)ここに医療費の領収証を持ってきました。1年間集めるのが大変でした。
  • 私)丁寧にノートに貼られていますね。たくさんありますが、こちらの電卓で、まずは、ご自分で計算してみてください。
  • 相談者)計算できました! 102,000円です。
  • 私)あなたは税率が10%です。102,000円から100,000円を引いたら2,000円。その10%ですから、200円の還付ですね。
  • 相談者)…。ここに来たバス代にもならないんですけど。
  • 私)お気の毒ですが、計算上こうなります。
  • 相談者)…。1年間かけて、ここまで準備したのに…。

前述のとおり、計算式は単純です。確定申告会場に出向く前に、一度ご自身で計算してみてください。会場までの往復の交通費を上回るかどうか。

  • 相談者)去年出産して、その費用が48万円もかかりました。ここに領収証を揃えています。出産費用も医療費控除の対象ですよね?
  • 私)はい、対象です。ところで、出産された場合、健康保険からいくらかお金を頂いておられると思いますが、それはいくらでしたか。
  • 相談者)(通帳を見ながら)40万円です。
  • 私)そうなると、48万円から40万円を引き、更に10万円を引きますので、医療費控除は0となります。
  • 相談者)48万円も払ったら、期待してきたのですが…。
  • 私)出産費用の場合、こうなることがよくあるのです。残念ですが…。

まとめ

医療費控除に過大な期待をかけないでおきましょう。「還ってきたら儲けもの」程度に考えておいた方が良いですよ。そもそも、医療費控除は、「異常な支出」がある納税者のために創設された制度です。医療費控除を受けなくても良いような、健康な生活を過ごしてください。

【編集後記】

相談会場での相談は、難解な税法をどう噛み砕いて納税者の方に説明するか、なかなか骨のある仕事でした。「専門用語を使わずに専門的な話をする。これこそが本当のプロ。」だと、若い世代に伝えていましたが、「どの口が言う!」と突っ込まれそうです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました