税務署は青色事業専従者給与の金額をいくらまで認めてくれるのか #170

税金や会計のヒント

ある質問

クライアントのご家族から、「青色事業専従者給与の『賞与』については、届出書には金額を書いていたとしても、利益が出た場合のみ支払うということができるか。」という質問を受けました。

この質問を機に、改めて青色事業専従者給与の条文を読んでみました。

所得税法第57条

青色事業専従者給与については、所得税法第57条第1項に次のように規定されています。なお、赤字の丸数字は、私が追記したものです。

青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。

①青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者

青色事業専従者給与を必要経費に算入するには、前提条件として、税務署長に青色申告承認申請書を提出し承認されることが必要です。

その申請期限は、青色申告をしたい年の3月15日までです。ただし、1月16日以降に開業した方は、その業務を開始した日から2か月以内とされています(所得税法第144条)。なお、翌年以降分は、自分で止めない限り、青色申告が継続します。

所得税法第146条では、税務署長は、申請があれば承認又は却下の処分を書面により通知するように規定されていますが、実務上は、税務署長からの承認の通知は省略されています。所得税法第147条で、その年の12月31日までに承認又は却下の処分がなかったときは承認があったものとみなすという規定があるからです。

「返事がないけど申請は通ったのかなぁ。」と心配する必要はありません。過去に変なことをした経歴がなければ、ほぼ承認されます。

②生計を一にする配偶者その他の親族

「生計を一にする」というのは、日常の生活の資を共にすることをいいます。
会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、①生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、②日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。[出典:国税庁ホームページ]

③年齢十五歳未満である者を除く。

15歳未満である者は、事業専従者になれません。

現場において、「バイト代として子供に報酬を払ってはいけないのか。」と怒り出す方もいらっしゃいましたが、「支払っても差し支えありません。ただ、所得税の計算上必要経費になりません。」とお答えするしかありませんでした。簿記の仕訳は、[事業主貸 ●●円 / 現金 ●●円]などです。

④専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの

「専ら従事とはどれくらいか」とよく聞かれます。社会通念上(常識的に)「専ら従事」とは、「特別な事情があって働けない期間を除いた期間の2分の1以上従事(世間一般での休暇を含む)している」といったところでしょう。

詳しく知りたい方は、税大ジャーナルの論説「青色事業専従者給与の「専ら従事」の要件について」をご覧ください。

⑤次項の書類に記載されている方法に従い

次項である、所得税法第57条第2項の条文は、次のとおりです。青色事業専従者給与に関する届出書は、原則として、その年の3月15日までに提出してください。

その年分以後の各年分の所得税につき前項の規定の適用を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同項の事業を開始した場合には、その事業を開始した日から二月以内)に、青色事業専従者の氏名、その職務の内容及び給与の金額並びにその給与の支給期その他財務省令で定める事項を記載した書類を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

⑥その記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合

今回、私が受けた質問に関わる部分です。

金額の範囲内で必要経費になりますので、そのまま読めば、「記載されている金額を超えた部分は必要経費にならないけれど、その金額より少ない場合は問題ないよ。」と文理解釈できます。したがいまして、賞与は、計画通りの利益が出ない場合減額可能ということになります。

事前に専従者給与の金額を届けておくのは、生計を一にする家族の中での利益調整を防ぐためでしょうから、減る分には問題はないと考えられます。

⑦前条の規定にかかわらず

前条である所得税法第56条は、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が(中略)当該事業から対価の支払を受ける場合には、(中略)必要経費に算入しない。」という条文です。所得税法の特徴的な条文の一つです。

つまり、本来は生計を一にする者へどのような名義(給与、賞与、地代、家賃、報酬など)のお金を支払ったとしても必要経費にはできないけれど、例外的に青色事業専従者給与だけは必要経費に認めますよということです。

⑧その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるもの

税務調査でもよく指摘される部分です。例えば、「医者がその配偶者に年間500万円の給与を支払っているけど、仕事の内容は、看護師の話し相手と電話番程度である。」となれば、常識的に考えても「おかしい」と思うところです。指摘に納得できなければ、異議申し立てと審査請求を経て、最終的には、裁判で争うことになります。

条文では難しく書かれていますが、「他人を雇った場合、いくら支払うのか。」と考えれば、単純に給与額を決められます。自身や同業者の従業員と同一労働同一賃金で専従者給与を決めておられれば、税務署は必ず認めてくれることでしょう。

また、これにより、経営的にも、正確な分析ができます。特に、製造原価計算には重要な値となります。新たに人を雇う場合の基準にもなり得ます。

⑨その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入

ここに「必要経費に算入」できることが明記されています。

ご覧のように不動産所得の場合も青色事業専従者給与を申請することは可能ですが、現実には、人を雇うほどの業務がある不動産所得とは、かなりの資産をお持ちの方に限られることでしょう。

⑨当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。

青色事業専従者給与は、給与所得に該当します。したがいまして、支給者は、給与支払事務所等の開設届の提出、毎月の徴収高計算書の提出及び納税、年末調整、給与支払報告書の作成及び提出、源泉徴収票の作成及び交付、支払調書合計表の作成及び提出などの源泉徴収の義務が発生し、受給者は他の所得があれば合算して確定申告をしなければならない場合があります。

【編集後記】

最近は、時間が空いたときに、先輩税理士に推薦していただいた本で、法人税の実務に関する勉強をしています。分かり易くて助かっています。

ただ、本当に頭の中に留まってくれているのか不安になるときがあります。現時点では、1年以内に、法人の決算を2件行わなければなりません。早くアウトプットしないと零れ落ちそうです。

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