「消費税は逆進性がある」は真実なのでしょうか

税金や会計のヒント
くまぞう
くまぞう

最近、与野党とも消費税のことを話してるね。その中でときどき「消費税が低所得者に逆進性の影響がある」って聞くけど、逆進性って何?

たこいち
たこいち

逆進性とは、所得の低い人ほど負担が多く、所得が高い人ほど負担が少ないという状況を言います。普通と逆だから、逆進性ですね。

くまぞう
くまぞう

え~っ! だったら、消費税は問題がある税じゃない!

たこいち
たこいち

ところが、そうではないんだよ。

逆進性とは

年間の所得が200万円のAさんと、年間所得1,000万円のBさんを例にとります。

この2人は親友であり、久しぶりに居酒屋で飲んでいました。会計は6,000円+消費税600円の6,600円です。割り勘でしたので1人3,000円+消費税300円の3,300円ずつ支払いました。

この場合、2人が支払った消費税は同じ300円ですが、所得の低いAさんは、300円の痛みがBさんより大きく感じます。このことが、逆進性がある(Aさんから見たら不公平)というのです。

担税力とは

一般の方は聞きなれない「担税力(たんぜいりょく)」という言葉があります。

「担税力とは、租税を負担するものが不当な苦痛を感じることなく、社会的に是認できる範囲内で租税を支払える能力である。能力説では、税負担は担税力に応じて配分されるのが公平であるとされるが、この担税力という概念は、社会的、政治的あるいは倫理的概念であって、統計や数値的に確定できるものではない。人の担税力を示すものとして、一般には所得、消費、資産が挙げられる。」[出典:国税庁ホームページ「税法入門」]

学問としての税金は、能力に応じて課税するという「能力説」が有力です。

では、その能力をどうやって計算するのでしょうか。現在の日本の税制は、大きく「所得」、「資産」そして「消費」でそれを計ります。

「所得」を能力の物差しにするのは分かりやすいですね。会社や個人事業主のうち利益が出る、つまり所得を得る能力があるということですから。所得税や法人税が代表的です。

固定資産税という税金があります。代表的なのは不動産で、所有しているだけで毎年税金がかかります。自分の住む土地と家は利益を生まないのに、なぜ税金を払うのかという疑問を持たれている方もいらっしゃるかと思いますが、「資産を所有している=所有・維持するだけの経済力があるから」、つまり能力があると考えるからです。

もうお分かりかと思いますが、「消費」に課税するのは、「お金を使える(消費する)能力がある」という視点で、担税力を計っているのです。

AさんとBさんの消費税額は不公平なのか

所得の差が5倍ある2人。この2人は、今回に限れば、同じモノに対して同じ税金を払いました。では、普段の生活はどうでしょう。今日の夜は2人とも、焼き肉でした。Aさんは、100グラム300円の肉で我慢しましたが、Bさんは100グラム600円の肉を購入しました。Aさんが払った消費税は240円(軽減税率8%適用)、Bさんが払った消費税は480円です。Bさんが多く消費税を払っています。車の購入、レジャーへの支出など、おそらくはBさんの方が普段から多く支出していることでしょう。ですから、当然消費税も多く払っています。

仮に、2人がまったく同じ生活(支出)をしているのであれば、支払う消費税は同じになりますが、通常では考えにくいことです。

それでもそういう例があったとしても、Bさんが使わなかったお金は一時的に貯蓄に回ります。そして、いつかは使います。そして、その時に消費税が発生します。使わなかったら、死亡時に相続税として課税されます。

つまり、結局は、所得が高い人は多く消費税を支払うので、私は消費税を逆進性がある税とは考えておりません。

垂直的公平と水平的公平

税法という学問の話ですが、「税は公平でなければならない」という大原則があります。では、何を持って公平というのかは、人それぞれの価値感は当然違いますので、万人が公平だという税法を作ることは、事実上不可能です。

能力を「所得」や「資産」を基準にする場合、「持つ者に多く課税するのが公平だ」というのが垂直的公平と呼ばれるものです。一方、能力を「消費」を基準にする場合、「使う者に多く課税するのが公平だ」というのが水平的公平と呼ばれるものです。

「逆進性があり所得が低い人には不公平だ」という論調は、まったく違う性質の「公平」をごっちゃにした、論理性が低い主張です。

負担と給付

「負担と給付」という視点からも、消費税に逆進性はありません。

消費税導入の目的の一つは、年金や福祉に関する財源を確保するためです。また、8%から10%となった際にも、「消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。」(消費税法第1条第2項)と使途が明確化されました。

ご存じのとおり、これら社会保障は、所得が低い方々に厚く配分されます。

AさんとBさんが年間同じ消費税を払ったとしても、税(社会保障)の恩恵を多く受けるのはAさんということになります。とならば、今度は、所得税を多く払っているBさんから「不公平だ!」という声が聞こえてくるでしょう。

公平を議論するなら、負担だけではなく給付も同時に議論しないと、それこそ「不公平」です。

まとめ

学問として税法を勉強してきた者としては、マスコミ、政治家、有識者(と呼ばれる方々)が逆進性を口にするたびに、この人たちもっと勉強してほしいと思っていました。

皆さんとも、「弱者の味方」ということをアピールしたいのかもしれませんが、ありもしない「103万円の壁」(いつか書きます)と同様に、世間を誤らせないでほしいものです。

【編集後記】

この原稿を書きながらふと、「税金は100%消費税のみの国」を考えてみました。消費税1%で約2兆5,000億円の税収です。国の年間予算100兆円を2兆5,000億円で割ると40%ですね。現行の消費税は10%のうち国が7.8%、地方公共団体が2.2%に分けられています。ですから、私たち消費者が払う税金は40÷7.8×10=約50%となります。所得税も酒税もその他の税金もなくなりますが、消費税50%の世界です。どこかの国が試してくれないかなぁ。

〈昨日の健康〉

ジムに行って、筋トレをしてきました。上半身だけですが、背中、胸そして腹に負荷をかけてきました。まだ、筋肉痛が取れません。

[昨日の感謝]

金曜日、ある方の紹介により、地元の金融機関の支店長にごあいさつに行きました。実績もない一介の税理士と面談してくださって、ありがたい限りです。(ご両名に感謝!)

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