「売電」は雑所得の「業務」なのか「その他」なのか それによって帳簿の記帳方法の違いや申告書への書類添付義務が発生します #216

税金や会計のヒント

売電の所得区分

所得税法では、所得は、その性格によって10種類に区分されています。

今日のお題は、雑所得の中でのことですが、参考までに、まずは、「売電」がどの所得に該当するかどうかの判断について記します。

国税庁の質疑応答事例によると、「売電」の所得区分は次のように取り扱われています。

  • 賃貸アパートの屋上に太陽光発電を設置して余剰電力を売却している場合…不動産所得
  • ただし、全量売電の場合は、事業所得又は雑所得
  • 事業所得者が事業所に当該設備を設置している場合…事業所得
  • 給与所得者が自宅に設置して余剰電力を売却している場合…雑所得

このように、同じ売電でも、違う所得に分類されますので、個々人の状況に応じて所得区分を判断することになります。

雑所得とは

雑所得は、バスケットカテゴリーとして、「他の9つのいずれにも該当しない所得」をいいます。なお、他の9つは、どのようなものがその所得に該当するのかが規定されています。

所得税の確定申告をご覧になると分かりますが、現在の雑所得は、3つに区分されています。

「公的年金等」と「業務」と「その他」です。それぞれに計算方法を含めてさまざまな違いがあります。

「公的年金等」は計算式が定められていますが、他の雑所得は、「その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」とされています。(所得税法第35条第2項第2号)

そしてさらに、「公的年金等」以外の雑所得が「雑所得を生ずべき業務に係る雑所得」と「雑所得を生ずべき業務に係る雑所得以外の雑所得」に分かれます。混乱しそうな文言です。

私としては、「このように性格が違うのであれば、雑所得を3つに分けるのではなく、所得区分を12種類にすればいいのに。」と考えていますが…。

「業務」なのか「その他」なのかにこだわる理由

令和4年分の所得税から、この中で「雑所得を生ずべき業務に係る雑所得」(申告書の「業務」)を有する方は、前々年の収入金額により取り扱いが変わりますので、注意が必要です。

前々年の総収入金額が300万円以下の者

帳簿の記帳において、いわゆる現金主義による収入費用の計上が認められます(原則は発生主義)。

前々年の総収入金額が300万円を超える者

業務に関して作成し、又は受領した請求書、領収書その他これらに類する書類のうち、現金の収受若しくは払い出し又は預貯金の預入若しくは引出しに際して作成されたものを保存しなければならなくなります。

さらに、帳簿は、発生主義で記帳しなければなりません。

前々年の収入金額が1,000万円を超える者

確定申告書に総収入金額及び必要経費の内容を記載した書類(収支内訳書)を添付しなければなりません。

「収入金額が1,000万円を超えるような「業務」は、事業所得の範疇になるのではないか?」と思わないでもありませんけど。

検討するきっかけ

私が担当する農業所得者の確定申告書を監査していたら、「売電」が「その他」に区分されていました。「これは業務ですよ」と指摘したところ、過去に税務署に問い合わせたら「その他」と言われたそうです。

「おかしいなぁ」と思い、国税庁ホームページを見たり、ネット検索したりしましたが、これに関する見解はどこにもありませんでした。唯一、税務大学校の研究部教授の研究論文を見つけました。

ここには、「「雑所得を生ずべき業務」の範囲が法令等において明らかにされているとは言い難く、課税庁はもとより納税者にとっても予測可能性を欠いた規定ともいえ、今後、問題が生じるおそれがある。」と記されています。

まったく同感です。

結論

私の考えは、「売電」は「業務」です! (根拠を述べると長くなりそうなので、控えます。)

監査の方は、令和3年分の確定申告には影響がないし、申告書の件数が多くて作り替えるのも面倒なのでそのまま通しましたが、来年は「業務」としていただく予定です。また、「売電」をされている方々には、何らかの方法で連絡する必要があります。

税務大学校研究部教授以外でこの問題を提起したのは(民間人では)、自分が最初では?と密かにほくそえんでいます(笑)。

ところで、農業所得者は事業所得者なので、農地に設置した太陽光発電施設は、事業所得になる可能性があるのでは? そうなれば、雑所得のままでは損益通算ができませんが、農業所得の一部になれば売電部分が赤字の場合、結果的に赤字を通算できることになります。これ点もまたいつか検討したいと思います。

【編集後記】

確定申告で忙しく、1か月半振りの投稿です。投稿するのは好きなので毎日でもやりたいのですが、余裕がありませんでした。公務員時代は、チームで動いていたので自分の仕事のみに集中できましたが、今は重要な仕事も雑多な仕事も一人で対応しなければならず、気持ちに余裕がなく反省しています。クライアントには効率化を求めながら自分がこれではいけませんね。

さて、今月は、補助金の審査と経営診断が中心の日々になります。合間に、事業復活支援金の申請サポートや事前確認の依頼が入っています。税理士から中小企業診断士へと、頭を切り替えます!

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