税理士として個別指導方式による記帳指導が終わりました #215

税金や会計のヒント

はじめに

令和3年8月にスタートした表題の記帳指導が終わりました。指導対象者の方は、令和3年中に開業された飲食業の方で、令和4年2月上旬にスマホから確定申告(e-Tax)していただきました。これで私の任務は、完了です。

個別記帳方式による記帳指導とは

目的

国税局の外部委託により、個人事業者に対し、記帳指導を個別指導方式により行い、記帳慣行の定着と記帳水準の向上を図り、正規の簿記の原則に従った記帳に基づいた適正な申告を行うことができる個人事業者を育成することが、目的となっています。

ネットで公表されていますが、福岡国税局の一般競争入札では、九州北部税理士会が落札しています。

指導対象者

各税務署において選定した者となっています。税務署では、例えば、新規開業した方などにこの制度を案内しています。

半年程度ですが、無料で税理士の指導を受けることができますので、対象者の方にとってのメリットは大きいでしょう。一方、税理士としての国税局からの(税理士会経由)報酬は、通常の税理士の顧問料に比べて低額です。

指導内容

指導対象者が作成した帳簿書類等に基づき、記帳の仕方、決算における処理、所得税及び消費税等の確定申告書の書き方並びに確定申告の際に必要な添付書類の作成方法などについて個別指導を行います。つまり、いわゆる「記帳代行」は行いません。半年後には自立していただかなければなりませんので、当然のことではあります。

指導のためにいただいた資料には、指導内容が細かく、しかもたくさん記載されています。「これ、本当に全部指導する(できる)の?」と思わないでもありませんでしたが、できる限りやりました。

指導場所

原則として、対象者の方の自宅や事務所に臨場して行いますが、オンラインでも可となっています。

私の税理士としての方針は、必ず月1回は訪問することとしておりますので、この記帳指導もすべて、先方のお店で行いました。

指導時期・回数

令和3年8月から令和4年2月の間に計4回の指導で、1回あたり120分程度です。

私は、自らの意思で、毎月、計7回訪問することにしました。記帳から申告まで、たった4回では中途半端になるとの判断からです。

私の活動

8月(1回目)

記帳の状況を伺いましたところ、マメな方で、Excelで簡易的な帳簿を付けられていました。何もせずに確定申告期に慌てる新規事業者が多い中、立派な方です。

ただしこれでは、簡易帳簿として10万円の青色申告特別控除は受けられますが、65万円の控除は困難です。指導の目標である「正規の簿記の原則に従った記帳」には不足いたします。

また、同時に効率化も求められました。「経理を効率化して経営に力をシフトする」のは、私自身の方針ですので、賛同できます。

そのため、「クラウド会計ソフトfreee」(以下「freee」といいます。)を紹介し、すぐに契約していただきました。月2,000円程度の出費が必要ですが、複式簿記による記帳であり、貸借対照表も作成できますので、節税効果はこれ以上に受けられます。また、記帳に慣れない方にとっては、日々の記帳はストレスです。そしてクラウド会計ソフトは、そのストレスを大幅に削減してくれます。

経営についても相談に乗っていたら120分など、あっという間です。

次回の訪問までに銀行に出向いてネットバンキングの契約をしていただくことを約束して、1回目は終了しました。

9月(2回目)

約束通りネットバンキングの契約をしていただいていましたので、銀行口座とfreeeを連携させました。

経費の支払いは現金が多かったので、スマホから領収書(レシート)を画像で取り込むやりかたをお伝えしました。これは、AIが日付、金額を読み取るとともに、お店の名前から、勘定科目を推測してくれる機能です。なるべく早い時期に、すべて画像で取り込んでいただくようお願いしました。

freeeのメンバー招待機能を使って、私もメンバーにしていただきました。クラウドなので、私は、事務所で登録の確認ができるようになります。後日、取り込みが完了したことを連絡いただいた後、登録内容は自分の事務所でチェックをしました。

また、消費税の仕組み及びインボイス制度について説明しましたが、当面は免税事業者として活動します。

次回以降にはクレジットカード及びレジをfreeeと連携することとして、2回目は終了しました。

10月(3回目)

売上については、ご本人が記帳されていたExcelからCSVでエクスポートすることにしました。現金売上は現金で、PayPayでの売上は売掛金として加工した上で、freeeにインポートしました。

なお、売上の入力は、令和3年分はExcelから、令和4年分はAirレジを連携させることになりました。

開業までに使った金額などから、開始残高を設定します。開始残高は、期末に貸借対照表を作成するために重要な作業です。この作業は、簿記の知識が必要だし、少々手間がかかりますが、65万円の青色申告特別控除を受けたい場合は、必ず設定しなければなりません。この日は、設定のための資料の準備をお願いしました。

経営については、Instagramの活用を提案しました。飲食店は、画像で選ばれる確率が高いことから、こまめにアップすることをお勧めしました。

また、筑後市の補助金、「新しい生活様式移行支援事業」を紹介したところ、さっそく、新型コロナウイルス対策の品々を購入されました(最大10万円の補助金です。)。

11月(4回目)

ご準備いただいていた資料から、開始残高を設定しました。併せて、固定資産台帳に固定資産を登録しました。

現時点において、売上に対する材料費の割合が高いことを指摘し、当面は原価率が40%以下になるようにお願いしました。ここの率を落とさないと、利益は出ません。一般的に30%が適切と言われますが、この店は材料にもこだわりがありましたので、少し高めでも良いのではないかと判断しました。

12月(5回目)

freeeの月次推移表の見方を指導しました。これにより、売上、仕入、売上総利益のほか、経費の入力漏れや過大な経費が見える化できます。最低月イチは確認するようお願いしました。

また、年内最後の営業日が終わりましたら、食材の棚卸しを行うようお願いしました。Excelで棚卸表を作って差し上げ、お渡ししました。

この時期になると、ご本人のfreeeの操作能力が大きく向上され、記帳作業が大幅に減少してきました。そのため、今後の経営についての話に相談がシフトしてきました。

1月(6回目)

食材の棚卸しが済んでいましたので、freeeに入力しました。

決算が終了しました。e-Taxで申告するためにマイナンバーカードの取得をお願いしていたのですが、市役所が込み合っており、発行が遅れているとのことでした。

1月に行うべき、償却資産申告書、源泉徴収票、合計表、給与支払報告書の作成を指導いたしました。

レジは、令和4年からAirレジ(無料)に変更していただきました。そして、1月以降の売上は、順調にfreeeに取り込まれていることを確認しました。また、PayPayでの売上は売掛金として、これも自動で登録されていることも確認しました。

2月(7回目:最後)

マイナンバーカードを取得しておいていただきましたので、今日は、確定申告です。

カードリーダーはお持ちではないので、スマホでマイナンバーカードを読み取り、freeeで確定申告を完結しました。

令和4年度以降の経理について、いろいろと指導しました。PayPayからの入金は1か月分が翌月始めに、手数料を差し引かれた後の金額が銀行に入金されます。その際の仕訳については、取引テンプレートを作成しました。売上総額や手数料はスマホから情報を確認できますので、月イチの作業は簡単です。

また、自動登録ルールの使い方について、わざと未登録のままにしていただいていたいくつかの取引について、「取引を推測」するのか「取引を登録」するのかをその場でやってみました。後者の場合は、完全に自動化できるので、記帳に一切の手間が不要となります。私もfreeeを使っていますが、必要経費は8割程度を「取引を登録」にしていますので、記帳作業が大幅に簡略化(何もしなくて良い)されています。

クラウド会計ソフトの効用

クラウド会計ソフトは、記帳作業の効率化のために、大きく3つの利点があります。

1つ目は、自動計算です。足したり引いたりする計算が自動化され、入力ミスがなければ計算ミスは生じません。これは、クラウド会計ソフトではないインストール型でも同様ですが、以下の2つはクラウド会計ソフトが大きく先に行っています。

2つ目は、自動連係です。今回は、金融機関、クレジットカード及びレジを連携させました。これにより、入力作業は、現金のみが残ります。現金は、スマホで画像取り込みしていただくことで、仕訳を推計はしてくれますが、その作業も面倒です。そのため、できる限りクレジットカードを使っていただき自動でデータが取り込めるようにしていただくようにしています。

3つ目は、自動で登録です。クラウド会計ソフトはAIにより、勘定科目を推計してくれます。通常は、推計された勘定科目などを人の目で確認して登録しますが、freeeでは、その推計から登録までも自動化できます。

まとめ

今回、対象者の方は、クラウド会計ソフトを素直に受け入れていただきましたので、指導もスムーズに行うことができました。

今後もこの記帳指導の仕事の依頼が来るかどうか(受けるかどうか)は未定ですが、クラウド会計ソフトを使う(使っている)方に限定していただけるなら続けても良いかなと考えております。

【編集後記】

先週は2件、事業復活支援金の事前確認に伺いました。お一人は売上が30%以上減少していなかったため該当しませんでしたが、もう一人は無事に事前確認が終了しました。

事業復活支援金の計算シートを公開していたのですが、セルを保護するのを忘れていたために、誰かに勝手に書き換えられていました。

今度はしっかりと保護をして、書き換えを防止しました!

コメント

タイトルとURLをコピーしました