はじめに
税法を含めて法律は、数学のテストようにすべてが1つの答えになるというものではありません。
具体的に判断するには、ケースバイケースであり、かつ、法律の解釈も意見が分かれる場合があります。最終的には、裁判所が判断いたします。
私が書く内容も、あくまでも私見ですので、参考としてお読みください。具体的事案があれば、顧問税理士など専門家に相談されてください。
相談
さて、よく相談されるのが、表題の質問です。
確かに経費になる場合があります。
ただ、一般の方は、感覚的に「このくらい(〇%)ならいいだろう。」と考えられていますが、実際の条件は厳しいです。詳しく内容を聞いてみると、経費になると考えられるケースは少ないです。いい加減な(失礼!)税理士なら、入れてくれるかもしれませんが。
「感覚の数字」で経費に入れた場合、税務調査で否認される(経費と認められないこと)可能性が高いです。
家事費と家事関連費
所得税法第45条(家事関連費等の必要経費不算入等)では、次のように規定されています。
第四十五条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
- 一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの
- (以下略)
つまり、所得税法は、「家事上の経費(以下「家事費」といいます。)」と「これ(家事上の経費)に関連する経費で政令で定めるもの(以下「家事関連費」といいます。)」は、「必要経費に算入しない」とはっきり申しております。
家事関連費とは、家事費の部分と事業の経費の部分の両方が混在した支出のことです。つまり、少しでも家事費の要素が入った支出は、原則として必要経費になりません。まずは、この原則を基準に考えてください。
一般の方の中には、「少しでも経費性があれば、一部でも経費になるはず。」と思われている方がいらっしゃいます。確かに経費性はあるかもしれませんが、「必要経費としない」と所得税法は定めています。
家事費
家事費は、どのような理屈をつけても必要経費になりません。
では、家事費とは何かといいますと、衣食住にかかる費用や遊興費、その他事業をやっていなくても、人が生活をしていく上で通常支出するようなものを言います。ちなみに、「自分はこう思っている」という主観的なものではなく、誰もが納得できるような客観的な判断が必要です。
家事関連費
家事関連費も原則は必要経費にできませんが、次のような場合は、例外的に必要経費に入れることができます。なお、この例外規定に沿う経費以外の家事関連費は必要経費になりません。この「例外」を拡大解釈される方がいらっしゃいますが、裁判になれば、まず負けるでしょう(過去の裁判例が示しています。)。
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費
この条文を語ろうと思うと時間がかかりますので、一部分だけ解説します。
1項では、「明らかに区分することができる場合」とされています。つまり、「おおまかこれくらい」は通りません。
表題の自宅であれば、リビングで仕事をしていても、普段の生活でも使う場所であれば経費としては認められません。この場合、「明らかに区分」することは、現実的にはほぼ不可能だからです。
一方で認められる場合は、ある部屋を仕事場としてはっきり区分(区画)し、客観的に誰が見ても仕事専用のスペースと使っているであろうと考える部分については、自宅全体の面積からその部屋の広さを案分して、自宅にかかった費用を必要経費として認められることでしょう。
ただし、住宅借入金等特別(ローン)控除は、「居住の用に供する部分」に対する減税です。事業の部分があれば、「居住の用に供する部分」以外になりますので、その分住宅ローン控除は受けられません。念のため。
必要経費に算入する場合の注意事項(国税庁HPより引用)
- (1) 個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。
(例)交際費、接待費、地代、家賃、水道光熱費
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
まとめ
家事費も家事関連費(家事の部分と事業の部分が混在する支出)も、必要経費にできません。
例外的に、明らかに区分できることができれば、必要経費にできる場合があります。この場合、その計算根拠を残しておきましょう。
【編集後記】
税務調査において、税務職員がよく目を付けるのが、この家事費と家事関連費です。その証拠に、税務当局と納税者が争った裁決事例や裁判事例がたくさんあります。
また、いろいろな書籍でも、「少しでも経費性があればOK!」みたいに書いてあるものが販売されています。自分に有利になる情報を信じたいのは人の性ですが、信頼ある専門家からのアドバイスに耳を傾けてください。税務当局から加算税(罰金的なもの)が賦課(課税)されても、おそらくその著者は、責任を取ってはくれないでしょう。
事業者にとって家事関連費は、経費性があるために経費に入れたい気持ちは分かります。しかし、個人として生活する自分と、事業者として活動する自分が一体である個人事業者は、理屈をつければどのような支出でも「(わずかでも)経費性がある」と言い張ることができます。公平の観点からそういうルール(法律)になっていますので、ご理解ください。
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